【本日の研究】 『永遠の出口』

a0035263_10302639.jpg<novel>

本日の研材、

『永遠の出口』   
      森 絵都







   私は、<永遠>という響きにめっぽう弱い子供だった。


「あたし今日、友達んちですっごく貴重な切手を見せてもらったの。すっごく高くて、すっごくめずらしいやつ。でも、紀ちゃんはあれを永遠に見ることがないんだね」
「紀ちゃん、昨日、なんであんなに早く寝ちゃったの?『水戸黄門』最高だったのに。昨日は偽者の水戸黄門が登場して、でもほんとにそっくりでびっくりだったのに。紀ちゃんはもう永遠に、死ぬまであのそっくりさんを見れないんだ」
「今日、二組の斉藤くんが昼休みに生徒会の選挙演説に来たんだけど、途中から斉藤君コンサートが始まっちゃって、それがすっごい音痴でおかしいの。もう、みんな大爆笑!あたしあれ、一生、忘れないと思う。紀ちゃんは一生、見れないけど」
 永遠に。
 一生。
 死ぬまで。
 姉の口からそんな言葉が飛び出すたびに、私は歯を食いしばり、取りかえしのつかないロスをしてしまったような焦燥と闘い、でも結局は敗れて、もはや永遠に会うことのないレアもの切手やニセ黄門様や斉藤くんの歌声のために泣いた。全てを見届け大事に記憶して生きていきたいのに、この世界には私の目の届かないものたちが多すぎた。とりこぼした何かを嘆いているうちに、また新しい何かを見逃してしまう。
 裏を返せばそれは、私がそれだけ世界を小さく見積もっていた、ということだろう。
 年を経るにつれ、私はこの世が取り返しのつかないものやこぼれおちたものばかりで溢れている事を知った。自分の目で見、手で触れ、心に残せるものなどごく限られた一部に過ぎないのだ。
 (永遠に~できない)ものの多さに私があきれはて、くたびれて観念し、ついには姉に何を言われても動じなくなったのは、いつの頃だろう。
 いろいろなものをあきらめた末、ようやく辿りついた永遠の出口。
 私は日々の小さな出来事に一喜一憂し、悩んだり迷ったりをくりかえしながら世界の大きさを知って、もしかしたら大人への入り口に通じているかもしれないその出口へと一歩一歩、近づいていった。
 時には一人で。
 時には誰かと。


長々と打ちましたが、この冒頭の部分の文章ですっかり心捕らえられてしまいました。

この後も主人公の紀子の成長を軸に色々な物語が展開されますが、そのどれもが決して大きい出来事ではないものの、自分にも身に覚えのあるような出来事ばかりで、何やら懐かしいというか、甘酸っぱいというか、こっ恥ずかしいというか、そんな気持ちにさせられました。

<女の子>と<男の子>はまた視点も違うんで、考え方の微妙な違いなんかもありましたが、基本的に自分の成長譚を思い返すように読みました。
特に第八章。これは・・・イヤだな、あの頃の自分をみているようで。相手にとってそれが今は笑い話になっていることを祈る・・・。

著者は児童文学をフィールドにしておられるようで、かなり有名な方のようですね~。'03に発表された今作は、「児童文学」という枠を飛び出した最初の作品だったようで。
恥ずかしながらお名前すらも知らなかったボクですが、「じゅわ~っ」分泌量はかなりのものでしたので、当ラボでは今後も追っていきたいと思います。

当ラボの研究結果は、ロビタ2号のラボの<novel - '06>の方にUPしておきます。
[PR]

by robita00 | 2006-04-15 16:05 | ┗ novel - '06 | Comments(2)

Commented by 藍色 at 2009-06-08 16:46 x
つい最近うかがったので迷いましたけど、また来ちゃいました。
直接リンクを置かせていただきますね。
とっても懐かしい気持ちになりました。
新刊「架空の球を~」かなり作風が変わってますけど、面白かったですよ。よかったら。
Commented by robita00 at 2009-06-08 22:47
あ、藍色さん、こんばんは~!(* ̄∇ ̄)ノ ドモッ
いつでもきてくださいましw 大歓迎っす。

藍色さんも『永遠の出口』読んだんだなぁって。
ボクが読んで「おおっ!」となったのでまだ藍色さんが読んでないのは数少ないかもしれない・・・いつか藍色さんが「おおっ!」となるのを推薦してみたいっすねー。

「架空の球を~」ですね、ふむふむ。当ラボはブクオフとかで見つけないとなかなか研究しないんで、出会える事を祈って、<欲しい小説帖>に書いておきます!